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ドラゴンランス戦記 (1) (マーガレット・ワイス(著)、トレイシー・ヒックマン(著)、安田均(翻訳)/富士見文庫)

投稿日:2017年6月11日 更新日:

  • 完成されたファンタジー娯楽大作
  • 魅力的なキャラにスリリングな展開
  • あえて書けば、全てのラノベの原点的存在
  • おススメ度:★★★★★

こんな古い本(昭和62年初版)を引っ張り出して批評するサイトも今は少ないと思うが、面白いのだから仕方ない。しかも、キチンと怖い本としても読める。何しろドラゴン始め、数々のモンスターが襲い掛かってくるシーンは極めてスリリング。血も飛べば腕も首も飛ぶ。そして、正統派ファンタジー活劇として、ほとんど隙なく完成されている。ちなみに、現在は元の小説は種々の事情から絶版となり、「ドラゴンランス(1) 廃都の黒竜」として、刊行されているが、あえて燦然と輝くホログラム付きの富士見文庫版の写真を使用した。

(あらまし)5年前に分かれた7人の仲間たちは、懐かしい故郷で再開する「はず」だった。しかし、たどり着いた故郷は、不気味な怪物が闊歩する不穏な世界に変貌していた。苦悩するリーダー役ハーフ・エルフのタニス、高潔な騎士スターム、陰気で陰のある魔術師レイストリンとその真逆に明るく強靭な戦士キャラモン、不平屋のドワーフのフリント、茶目っ気たっぷりなタッスルホッフ。さらに美しい平原の娘ゴールドムーンやその忠実な恋人リヴァーウインド……彼らは出会い、世界を揺るがす戦乱に巻き込まれていく。第一巻のクライマックスは、崩れた都での激しい戦闘だ。

この小説が素晴らしいのは、小説の組み立て方がうまいのはもちろん、絶えずエンターテイメントを忘れず、読者を楽しませようと精一杯工夫を凝らしているところだ。例えば、この小説には一般的にいう章というものがなく、適度な区切りとして「1 旧友との再会/突然の妨害」「2 <憩いのわが家>亭への帰還/衝撃 誓いが破られたこと」などという風なタイトルが付けられている。基本はシリアスな展開が続くが、合間に笑いを入れることも忘れない。緊張と弛緩が程よく制御され、物語はやがて疾走し始めるのである。

この小説は元はテーブルトークRPG(Wiki)という、今のコンピューターゲームのRPGの更に先祖といえるもの基礎に、その設定を借りて小説化されたものだ。分かりやすく言うと「ドラゴンクエスト」の小説版ということになる(この比喩は何重にも矛盾しているのだが)。

テーブルトークRPGをスマホゲーム全盛の世の中で解説するのは非常に難しいが、とにかく、リアルな「オタク」が何人も同じ場所に集まって、決められたルールと世界観に則って、サイコロやシートを用意し、それぞれのキャラになりきって、話を進行させるという遊びなのだ。こう書くとオンラインゲームのローカル版のように思えるが、大きな違いがある。それはゲームマスターという役割の人物が自分で物語を考えないといけないということだ。つまり、大勢が決められたストーリーやミッションを消化するのではなく、そこにいる人間がアドリブでゲームを作り出していくのである。まさにコミュニケーションを通じて「なりきる」ことを楽しむ真のRPGの形態といえる。

そのため、この小説は非常にゲーム「的」だ。敵味方がはっきりしているし、それぞれのキャラクターの個性も際立っている。一般的にゲーム的な小説というのは褒め言葉ではないが、この小説にはそんな批判は無意味だ。何しろこれはファンタジーゲーム的ではなく、ファンタジーゲームの小説なのだから。

敢えて古い表紙を採用したのは意味がある。この表紙の三人が主役たちの一部である。左の弓を構えた髭のおっさんがタニスというリーダーで、真ん中の女がゴールドムーンという平原人の娘、右の騎士がスタームという義に厚いキャラクターだ。このデザインでは、現代の青少年は絶対に本屋で買わないだろう。何しろ、当時でも「バタ臭い」挿絵だと感じたのだ。しかし、それにひるんではいけない。この小説にはそんなものを吹き飛ばす魅力がある。小説を読み終えれば、この挿絵のタニスのリーダーシップに魅力を感じるし、ゴールドムーンは美しく思える。そして、右側の髭の騎士の気高さには胸を打たれるだろう。

もちろん、ファンタジー小説につきもののお約束を知っていないといけないことや、時々挟まるポエムなど、手放しで褒められない部分も、もちろんあるとはわかっている。しかし、私にとってこの小説が示した娯楽性は私の理想とする小説の形態であり究極の「面白い本」なのだ。指輪物語はもちろん6度も読み直すぐらいの素晴らしい小説だし、ゲド戦記の哲学性や神秘性にも感銘を受けた。「ロードス島戦記」にも熱くなった。ザンスやコナン(名探偵でも未来少年でもない)、エルリックサーガやTTRPGのリプレイもいっぱい読んだ。ハリーポッターも読んだし、グインサーガも栗本薫の死までは読み続けた。その他、数えきれないファンタジーと呼ばれる小説や漫画・ゲーム、映画を楽しんだが、それでもこの小説が一番面白いと今でも思っている。

あなたがもし大人なら少年時代の冒険を、あなたが青年なら二度と出会えない感動を、もし少年ならまだ見ぬ大人の世界を見せてくれる一冊。今回は冷静に紹介できたという自信がない。私が小説を読んで、その小説のキャラクターが死んで号泣したことは今まで二冊しかない。その一冊がこの小説なのだから。

(きうら)

<補足>下には新版のリンクも貼っておくがこちらも現在は廃盤のようだ。どっちみち中古なら、元の表紙で読んでみてほしい。ただ、もしこの小説を読んで「どこかで読んだ」と思われたならそれは大変悲しい。劣化コピーされた作品が氾濫し、さらにその孫、ひ孫、玄孫コピーが今の世の中には氾濫している。最後に、この小説よりドラマチックと感じたファンタジー作品が一つだけある。それは、アメリカのドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ 第一章~第六章[Blu-ray]」だ。そのうち紹介したい。

 

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