- 目潰し魔と絞殺魔の事件を繋ぐ糸とは
- 魅力的なキャラクターたち
- ネタバレありの感想
- おススメ度:★★★★☆
この作品については、前編に引き続いて感想を書いていきたいと思う。前回は今まで通り概要を紹介したのだが、今回はネタバレありで、他の作品と比べて、本作の魅力をもう少し書いてみたい。そういう内容なので、まずは(前編)を読んで頂いてる、かつ、作品も読まれたということが前提になあるので、未読の場合はご注意ください。
以下、ネタバレありの感想です。
少々、解説口調を崩して書いてみると、今回は非常に男性にとっては刺激的なテーマが扱われている。メインテーマが、少女売春なのある。そのうえ、物語の中心人物は美しい四姉妹が登場する(一人は亡くなっているが)という王道パターンだ。しかも、少女売春にかかわっているのは四女の碧で、まだ13歳という設定になっている。それも典型的な「お嬢様」キャラクターで、この辺は、著者も狙って書いているのかなと思う。
著者の京極夏彦は、非常に博識なので、このシリーズもいろんなパターンのキャラクターが登場するが、薄幸の美少女というキャラクター造詣が多い。一作目の姑獲鳥の夏のヒロインは登場時は少女ではないが、ペドフィリアが話の根幹に関わっていた。二作目の「魍魎の函」は完全にロリータへの倒錯がテーマになっている。その二作で少々著者自身も視点を変える必要を感じたのか、3作目はいやにさっぱりした姉御肌の美人がヒロインであった。それだけに3作目の「狂骨の夢」だけは、全体的に乾いた印象がある。しかし、前作はメインテーマに衆道(男色)が織り込まれているものの、少女性愛というテーマは再び継続されていた。
本作は特に顕著で、四女の碧は儚い雰囲気を持った正統派の美少女、三女の葵は中性的なこれも絶世の美貌、次女の茜は薄幸のヒロインとして描かれている。その他、母親である真佐子や家政婦のセツ、木場刑事が立ち寄る「猫目洞」というスナックの主人にしても美人ばかりが登場する。そして、それらの崩壊が小説の要になっている。
最後まで読まれれば分かるが、本作は壮大なカタストロフィを伴った結末が待っている。かつて「銀河英雄伝説」で著名な田中芳樹がその昔、そう呼ばれたように、まさに「鏖(みなごろし)の京極夏彦」とでも言うべき悲劇的大団円になっている。とにかく、ラストでは人が死にまくる。それも可憐な美少女から、フェミニストの活動家、気高い女主人まで、分け隔てなく死ぬ。
こういう視点で振り返ってみると、それこそ第3作目を除き、京極夏彦はとにかく最後に積み上げてきた理屈やキャラクターを破壊することが多い。逆に言うと、探偵役である京極堂によって事件は解決するが、それによって救われるキャラクターが非常に少ない。どこか意識下に加虐趣味があるというか、破壊衝動があるというか、膨大な蘊蓄の影にそういった悲劇への憧憬が常に見え隠れするシリーズだと思う。
特に今回は冒頭から、京極堂は負けを認めており、最後まで読むと冒頭につながっていることがわかる。そういう意味では小説的な技巧として、今回は読みやすくスムーズであるし、スリリングな展開が多い。前作の「鉄鼠の檻」は、禅がテーマなだけに、その破壊すべき物語の骨子を構築するのに手間取り(あるいは読者が読み取れず)カタルシスが少なかったが、今回は女学生に基督教という簡単明瞭なバックボーンなので、単純に言えば物語に没頭することができる。
一応、このシリーズの正シリーズは読破しているが、全作品を通しても、格段に面白い作品だと思う。個人的にはこのシリーズのベスト3を決めるとすれば、「姑獲鳥の夏」「魍魎の函」と、この「絡新婦の理」を挙げたい。
余談だが、何らかの事情でシリーズが中断してもうかなりの時間が経つ。ここまで再読して思うが、シリーズとしての完結も切に読みたいと思う。これまでの長大な四作品を読破したうえで、さらにこの作品を読むというのはハードルが高いが、おススメの一冊である。
(きうら)