★★★☆☆

クマにあったらどうするか: アイヌ民族最後の狩人 姉崎等(姉崎等(語り)/片山龍峯(文))

投稿日:2019年9月30日 更新日:

  • 熊ハンターへのインタビュー
  • 日本における熊の生活・生態が良くわかる
  • 重複が目立つところも
  • オススメ度:★★★☆☆

アイヌ民族最後という凄腕熊ハンターと対談形式で語られる「熊」の実態。手に取った動機は単純だ。

このブログでも取り上げた「羆嵐」や「ファントムピークス」など、熊を題材にしたサスペンス・ホラーも本邦に多い。また事実としても七人が亡くなられた三毛別羆事件(Wiki)を始め、山菜採りの人や大学生が襲われた事件など、枚挙に暇がない。一方で、某夢の国の黄色熊・テDBアーなど、マスコット化された愛らしい印象もある。いったい、熊とはどういう生き物なのか? 結局、私は動物園の暇そうな姿しか見ていない。その疑問を解いてくれるだろうと言うのが、いきなり読み始めた理由だ。そうええば熊が悪者で犬が主役の銀牙という漫画もあった。

ただ、意外にもこの本を読み始めて思うのは、プロのハンターへの興味だった。海外ならともかく、日本でハンターを職として生きてきた人の話は貴重だ。それを語る姉崎さんは、アイヌ民族とはいえ母方のみの血で、アイヌの村ではハーフ扱いされ、何かと差別されたらしい。しかも、小学3年生で母と兄弟を養う為に、ありとあらゆる方法で生き延びてきたとある。「恐ろしいのは、熊ではなく貧乏だった」とは、この人の本音だろう。そういった生き様、サバイバル術がまず語られる。時々、写真が載っているが、年齢を感じさせない鋭く重い視線が印象的な人だ。旧式の単発・村田銃を手にして佇む姿は、命の太さが違うように感じる。

タイトルの「クマにあったらどうするか」は、前半はそんな姉崎さんの生き様の合間に語られ、後半できっちりケリをつける形になる。死んだフリが有効か? リュックを投げ付けて逃げるのは? そういった疑問に答えてくれるが、結論を一言で言えば「逃げるな」だ。曰く、熊は基本的に人間を恐れている。人に出会って驚いているのは熊の方だ。だが、熊も恐怖や防衛本能から、立ち向かおうとする。そこで、人が背中を見せて逃げるとどうなるか。「強いと思っていた人間が意外に大したことがない」=「襲われる」のである。時速60キロで走るという熊に山道で逃げ切れるはずはない。ならば、戦うしか無いらしい。棒立ちでもいいので、立ったまま、熊を睨みつける。できれば、腹の底から声を出す。こちらも威嚇しろという。例え腰が抜けても、視線を外さず睨みつけろという。

この話を聞いて、自分なら絶対に助からないな、と感じた。目の前にでかい熊がいて、立ち向かっていけるか? 悲しいかな、そんな修羅場は潜ってない。しかし、姉崎さんは若い頃からそれでずっとやってきた。ある時、至近距離で熊と不用意に遭遇して、戦闘になったという。姉崎さんは、村田銃だけを頼りに何時間も熊と対峙したという。しかも単発銃なので、下手に撃ったらそれで終わり。何でも熊は顔を半分飛ばされても向かって来るらしい。それでも立ち向かって勝った。村の長老には「お前だから生きて帰られた」と言われたという。

これにダブるのは逃げない男という美学だ。ハンターと言うと、血生臭い印象や、スポーツハントのせいで必ずしもいい印象ばかりではないが、人生をかけて熊と向き合ってきた人間は研ぎ澄まされている。熊は基本、雑食の動物で肉食獣では無い。なので、人間を食糧とは普通は考えて無いらしい。なので、ハンターを恐れて逃げるらしいが、一度、人を食べた熊は「悪さをした」熊になる。この類いは価値観が逆転し、人間が餌に見えるとのこと。しかし、姉崎さんは言う。むしろ向かって来る熊は撃ちやすい、と。心臓に村田銃一発で仕留める。この辺が既に常人では無い気がするが、事実だから仕方ない。人間の裏をかいて逃げ回る熊を追うのがハンターの本来の仕事なのだ。

本人が自ら述べているように、この人はどちらかというと熊に近い人間だ。今後、どう転んでもこんな人生は送れはしない。そういう意味で異なる人生を味わえる一冊だ。表紙のファンシーなイラストに騙されてはいけない。

とは言え、インタビュアーの方が、上手くまとめきれて無いというか、実録ゆえの冗長さが目立つというか、文章としては及第点ぐらいと思う。これは好みの問題だが、もっと鋭いドキュメントか伝記として読みたかった気もする。下手な小説より、ドラマティック過ぎるこのお話、私と同じ「ホラーな熊」に興味がある人にはオススメだ。

(きうら)


-★★★☆☆
-, , , ,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

ラヴクラフト全集(1)(H・P・ラヴクラフト (著)、大西尹明(翻訳)/創元推理文庫)

架空のクトゥルフ神話体系をベースにした怪奇譚 恐怖の周辺を描く独特の作風 コズミックホラーと称される壮大なバックグラウンド おススメ度:★★★☆☆ 日本でも二次創作や三次創作が行われ「知る人ぞ知る」怪 …

ドラゴンヘッド(1)-(10) 【完結】(望月峯太郎/ヤングマガジンコミックス)

世紀末漫画の傑作 最初の方はよく出来ている 収拾が付かなくなったのが残念 おススメ度:★★★☆☆ 1995年にコミックスの初版を出版しているリアルなディストピアものの漫画。当時は、けっこうブームになっ …

二階の王(名梁和泉/角川ホラー文庫)~紹介と感想、軽いネタばれ

二階に引きこもる兄の正体は? 元「ひきこもり」達だけに見える異形と化した人々 彼らは「悪因研」と称し、見えない悪と対峙するが……。 おススメ度:★★★☆☆ 旧サイトの「新刊を勝手に予想」というコーナー …

霧が晴れた時(小松左京/角川文庫)

SF要素のあるホラー小説集 異常だが、面白く説得力のある設定が多い 特に「くだんのはは」がオススメ おススメ度:★★★☆☆ 本作品は、SFホラーとでも言うべきジャンルで、伝統的な怪異譚にSF的な要素が …

残穢(小野不由美/新潮文庫)~読書メモ(011)&クロスレビュー

読書メモ(11) ドキュメンタリータッチですすむホラー 現代史の見取り図に沿って語られる おススメ度:★★★☆☆ あちこちのホラーサイトで「怖い」と紹介されていて(確か)、当ブログでもきうら氏が「久々 …

アーカイブ