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★★☆☆☆

シン・ウルトラマン(監督/樋口真嗣)ネタバレあり

投稿日:2022年11月20日 更新日:

  • ウルトラマンじゃない
  • 抽象的な概念を話せば高尚なのか
  • ヒーローに葛藤は無用?
  • おすすめ度:★★☆☆☆

シン・ゴジラのテイストをかなり薄くしてコピーしたよう映画。失礼ながら樋口真嗣氏は演出家としては優れているが、監督としては凡庸だ(平成ガメラの時も思った)。シン・ゴジラは庵野監督の異様な熱量で押し切ってしまったが、本作は悲しくなるほど日本製低予算SFの限界を思い知らされる作品だ。

(あらすじ)次々と巨大不明生物「禍威獣(カイジュウ)」があらわれ、その存在が日常となった日本。通常兵器は全く役に立たず、限界を迎える日本政府は、禍威獣対策のスペシャリストを集結し、【禍威獣特設対策室専従班】通称【禍特対(カトクタイ)】を設立。班長・田村君男、作戦立案担当官・神永新二、非粒子物理学者・滝明久、汎用生物学者・船縁由美が選ばれ、任務に当たっていた。禍威獣の危機がせまる中、大気圏外から突如あらわれた銀色の巨人。禍特対には、巨人対策のために分析官・浅見弘子が新たに配属され、神永とバディを組むことに。浅見による報告書に書かれていたのは…【ウルトラマン(仮称)、正体不明】。

何のサスペンスもなく、スカした主人公と悪役、浅見弘子役の長澤まさみのセクハラ動画、盛り上がらないラスト。これが全て。

単純な地球を救うヒーローではなく、善悪の間で揺れ動くという設定だが、クールな映像を作ろうとし過ぎていて熱量が足りない。元々は怪獣とプロレスのような格闘をした後に、スペシウム光線でトドメというパターンを持っていたが、構成なのか予算なのか肝心の格闘シーンが薄味すぎる。かといってドラマ部分に特筆できる部分がなく、むしろ寒い。TV版ではエリート集団だったはずの地球防衛軍が、まるで左遷されたオタク集団のようになってしまっているのが残念だ。「禍特対(カトクタイ)」というネーミングもいかがなものか。そもそも5人しか居ないし、特殊な装備もないので自衛隊が戦っているし……。

平成ガメラはまだ楽しかったが、本作は庵野氏と樋口氏を混ぜて4で割ったような中途半端さを感じる。庵野氏の考えた設定はクールだが、樋口氏はそれを掴み切れていない気がする。いや、そもそもこれが限界とも思える。カラータイマーという秀逸なアイデアを切り捨てたのところにその限界の一端を感じた。

特撮はなるべく人の少ない場所を選んで戦っているのが分かってしまうほどチープ。2013年のギレルモ・デル・トロ監督の「パシフィック・リム」(そういえば敵はKAIJU⦅カイジュウ⦆と呼ばれていた)に比べると、悲しくなるほど予算が無いのが分かる。オブジェクト(ビルなど)は極力壊さず、破壊されるエフェクトで胡麻化している。シン・ゴジラでも感じたが、日本のVFX技術は欧米に20年以上遅れているのではないか。未だにジェラシック・パークすら超えた映画はないように思える。かつては世界を驚愕させた「特撮」が蔑みの対象としての「特撮」になってしまった。

元々はウルトラマンは自らの存在によってハヤタを死亡させてしまった贖罪の為に一体化したという重要な設定がある。本作の神永新二もそれをなぞっているが、そう思えないほど描写が弱い。自己犠牲という崇高なテーマが無い為、狙ったことだと思うが時々悪役に思えてしまう。ウルトラマンはそうじゃない。

ラストのゼットン戦もコレジャナイ感が凄い。自己犠牲のテーマや原作との整合性は図られるが、あれで良かったのだろうか。人類が生物兵器云々は今さら過ぎてゼットンを召喚するゾフィーがウザイ。

シン・ゴジラは意表を突いた設定とバカバカしいラストでエンタメとして一応成立していた。本作はそのフォーマットを中途半端に適応した結果、リブートと言うよりは「こんなウルトラマンもあっていいよね」レベルになっている。

唯一「いいかな」と思えたのは、神永新二役の斎藤工。令和のウルトラマンのイメージに合っている。長澤まさみは頑張っているが、巨大化させられるとは思っていなかっただろう。確かにメフィラス戦ではフジアキコも巨大化していたけど「シャワーを3日浴びていない女性の体の匂いを嗅ぐ」というアイデアは誰が出したのだろうか。ウルトラマンにフェティシズムは本当に不要だと思う。

映画館に行こうと思っていた作品だけに、がっかり感が凄い。米津玄師のテーマ曲「M八七」はいい曲だ。

直ぐに忘れ去れる映画になるだろう。とはいえ、ウルトラマンは私の記憶の一部分から消えることはない。ウルトラマン80(ウルトラマンエイティ)のテーマ曲で保育所で踊り(ダンスではない)をしたことを忘れはしない。

また会おう、ウルトラマン。

(きうら)

※TVで放映中のウルトラマンデッカーの方がやはりウルトラマンらしい。シン・ウルトラマンは外伝的位置づけなのだろう。

-★★☆☆☆
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