- 手形詐欺の真相を探る社会派エンターテイメント小説
- 流麗な文章できわめて読みやすい
- ちょっと強引なトリックと時代性のギャップを感じる
- おススメ度:★★★☆☆
もはや説明の必要のないくらい「砂の器」「点と線」などで著名な松本清張氏だが、私はこの「眼の壁」で初めて氏の作品を読んだ。事前に「社会派サスペンス」等と紹介されていたので、結構気負って読んだのだが、それはあくまで設定の話で、中身は流れるような物語と流暢な語り口のエンターテイメント小説だ。
<あらすじ>銀行で行われた巧妙に仕組まれた三千万円の手形詐欺の責任を取って自殺した会計課長。その忠実な部下であった萩崎は、友人の新聞記者の手を借りて事件の真相を追っていく。やがてそれは、強大な組織悪と向かい合うことになるのだが、二人が掴んだ手がかりは次々に消えていく……。
とにかくその文章・構成の流麗さは特筆もので、最近読んだ小説の中で最も読みやすかったと言っても過言ではない。適度に伏線を張りつつ、小さな事件をいくつも起こしながら、決してぶれないストーリー展開は見事だ。「何となく読んでいたら、最終ページになっていた」そんな印象だ。
ただ、不満が無いわけでもなく、特に話の中核となるトリックが不自然だと感じた。私はミステリーマニアではないので断言はできないが、ちょっと強引な気がする。また、事件の起きた年代が昭和40年代なので、その当時の風俗は現代から見ると結構違和感がある。銀行に防犯カメラが無かったり、田舎の道路が舗装されていなかったり、警察の科学捜査力も低すぎるような気がする。流石に時代の流れを感じるが、面白かったので「点と線」「砂の器」等も読んでみたい。
蛇足だが、私の世代ではTVドラマの「特捜最前線」の再放送などをよくやっていた。何となくよく観ていたので、その映像が思わず思い浮かんでしまった。
(きうら)
![]() 眼の壁改版 [ 松本清張 ] |