- ナチスの強制収容所に収容された心理学者の冷静な回想
- 読むと非常に重い現実が現れる。娯楽要素はゼロ
- 誰もが絶対に読むべき本だと私は思う
- おススメ度:★★★★★
皆さんは、人間の「性善説」と「性悪説」というのをご存じだろうか。非常に簡単に解説すると「性善説」-人間はもともと良い人間だが、悪いことをすることもある、「性悪説」-人間はもともと悪い人間だが、努力によって良くしている、という意味だ。本来はもっと違う深い意味があったと思うが、とりあえず、それを前提に話を勧めたい(詳しくは性善説/性悪説(Wiki))
私の知っていた一人の人間は「性悪説」の支持者だった。表面的には有能で明るく冗談も言って仕事のできる人間だ。家族も大切にするし友達も多いし、思いやりも持っている理想的な社会人だ。でも、その人間は「性悪説」を信じており、他人は決して信用できない、裏切るものだ、という信念を持っていた。それが合っているか間違っているのか、私には判断できない。でも、単純にそういう考え方が「嫌」だった。単に甘いだけと失笑する方も多数いるだろう。現実には、その方が正しいという気もする。でも「一部の例外を除き」そういう人間は少ない、と思いたいのが私の本音だ。もちろん、いい所と悪い所が混在している場合も多いので、切り分けることはそもそもできないかも知れない。
皆さんは人間は「性善」なのか「性悪」なのか、どちらだと思いますか?
その疑問に答えてくれるのが、この本だ。実際に強制収容所に収監された著者が、非常に冷静な視点で、実体験を綴りつつ、分析しているというのが本の内容だ。正直に言って、戦争の本は苦手だ。フィクションならどんな悲劇も笑い飛ばせるが、現実はそうできない。だから苦手なのだ。それでも、誰かにおススメ本を3冊教えて欲しいと聞かれたら、その一冊に必ずこの本を入れる。
そう、この本は「性善説」を信じるに足る根拠を示してくれる。例えば、自分が死にそうな程飢えているのに、他人に食べ物を与えようとする人が実際にいたこと。ナチス側にも収監者を助けようとした者がいたことなど、他にも無数にある。その逆の例も出てくる。
文章は終始冷静で、決して、残酷さを感情的にあおったりはしない。ただ、その冷静な視点が全ての「真実」を語ってくれる。これを読んで「甘い」と思う人もいるかも知れない。でも、私は「素晴らしい」と思った。「絶対に読むべき」だと思った。
決して「面白い」ものではないので、エンタメ系の小説を期待している人はスルーして欲しい。絶対に後悔する。誤解のないように書くと、エンタメ系の小説もすごく大切だし、大好きだ。本の中で人間が死んでスカッとすることもある。でも「夜と霧」という本は、世の中に「必要」だと思う。ぜひ、ご一読を。
ちなみにこの本は「新版」で「旧版」もある。違いは訳者で、内容は同じだが、簡単に言うと「新版」の方がソフトな内容で、「旧版」は生々しさがある。「新版」には写真はないが、「旧版」は死体の写真なども載っている。戦争が遠くなった今、読みやすい「新版」の方がおススメだが、興味があれば「旧版」も読んでみて欲しい。
(きうら)
![]() 夜と霧新版 [ ヴィクトル・エミール・フランクル ] |