3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★☆

白鳥の王子(野の白鳥) ~世界のメルヘン〈3〉(ハンス C.アンデルセン/講談社/挿絵は池田浩彰氏のもので)より ~あらすじと感想

投稿日:2017年5月2日 更新日:

  • 残酷且つ美しい童話
  • 継母によって追い出された王女の復活譚
  • エロティシズム溢れる挿絵。子供が「見て」いいのか?
  • おススメ度:★★★★☆

最近のアンデルセンの評価はどうなっているのか知らないが、せいぜい「裸の王様」「人魚姫」「雪の女王」ぐらいが頻繁に引き合いに出されるだけで、内容に見合った評価が為されているとは思えない。その中で、今回紹介するのは、物語としても最高に面白く、そして、小学生が読むには少々ショッキングな挿絵が入っている一冊である。

(あらすじ)王様が再婚。娘のエリサは継母に疎んじまれた上、醜い姿に変えられて追放される。11人もの兄の王子たちもこの悪女によって白鳥に変えられて放逐されていた。ただ、エリサは沐浴によって元の姿に戻り、王宮にも復帰するが、今度は執拗ないじめ。それでも、エリサには兄と自分を救う「秘策」があった……。

キーワードは沐浴で、直接乗せると色んなコードに引っかかりそうなので、Googleで「白鳥の王子 挿絵」で調べてもらえれば最初に出てくるはずだ。これを見た小学校の高学年が「目覚めて」しまうのも無理はない。記憶よりは美しくないが、それでも十分衝撃的だ。これが収蔵された童話集が家の本棚に並んでいて、一時期は毎日読んでいた。充分、変態資質を培ったというわけだ。

この後の展開も素晴らしく、いきなり復讐に出るのではなく、もう一回、物語的な「タメ」が入る。これが中々出来ないことだ。そして、ラストの美しさ。11人の美しい王子と美しい王女の対比。想像するだけで、素晴らしい光景ではないか。「裸の王様」ばかり引いてないで、ぜひこの話も広まってほしい。

最初の「悪意丸出し」具合は、シンデレラの継母か、ミンチン先生かというくらいの酷さ。この辺が説諭を飛び出して、サイコホラーっぽくなっているのでマジで怖い。今考えると、あの本にあった話は大体人間の「醜さ」を暴いていたような気がする。

一点注意がある。上記の挿絵が楽しめるのは、絶版になっているリンク先の本だけ(それも手元にないので確証がない)。物語そのものは、ネットであらすじも載っているし、青空文庫でも読めるが、ぜひ、あの挿絵で楽しんでもらいたい。

蛇足になるが、子供のころはアンデルセンの横にグリム童話もあって、その中の一番のお気に入りは「6人の男が世界をあるきまわる」だ。簡単に言うと、それぞれ超能力をもった男たちが成り上がる物語。ラノベでいうところの「能力モノ」の元祖のようで、非常に面白いお話だ。サイボーグ009のさらに原型のようでもある。また、機会があったら紹介したい。ちなみに検索すれば、どちらの話もタダで読めるはずだ。

(きうら)



-★★★★☆
-, ,

執筆者:

関連記事

『雌犬』(ピラール・キンタナ、村岡直子〔訳〕/国書刊行会)~「読書メモ(74)」

「読書メモ074」 コロンビアの僻村が舞台。 不妊の黒人女性と飼い犬の相剋。 オススメ度:★★★★☆ 【著者について】 著者のピラール・キンタナはコロンビア生まれの作家です。『雌犬』(原題La per …

狂骨の夢(京極夏彦/講談社) ~あらすじと感想、軽いネタバレ

清涼感のある猟奇系ホラーという特異な存在 前半は少々、まどろっこしいところも 読み返すと味のある展開。文庫版は多数加筆。 おススメ度:★★★★✩ 「姑獲鳥の夏」「魍魎の匣」に次ぐ、百鬼夜行シリーズ3作 …

洞爺丸はなぜ沈んだか(上前淳一郎/文春文庫) ~あらましと感想、阪神淡路大震災の記憶

日本史上最大の海難事故の記録 冷静で客体化された文章 極限状態での人間の本性を垣間見る おススメ度:★★★★☆ (あらまし)洞爺丸の事故(wiki)と言えば、昭和29年(1954年)に起こった死者・行 …

文学入門 (桑原武夫/岩波新書 青版)

非常に分かりやすい文学論 未読であれば深い感銘を受ける しかし、文学、進歩してないんじゃ…… おススメ度:★★★★☆ これまで娯楽小説好きを自称し、ブンガクというものとは一線を画して生活してきたのだが …

二十六人の男と一人の女(マクシム・ゴーリキー(著), 中村 唯史(翻訳)/光文社古典新訳文庫)

貧者にまつわる4つの短編ロシア的憂鬱を目いっぱい味わえる人生に絶望したことがあるなら、深く刺さるものがあるおすすめ度:★★★★☆ ロシアの文豪ゴーリキー……という知識しかない状態で、本著を読んでみた。 …

アーカイブ