- 比較的スリリングな医療系ホラー
- テンポが速くて読みやすい
- 落ちはちょっと
- おススメ度:★★★☆☆
(あらすじ)ライブ会場でいきなり頭から血が噴き出してロックシンガーが死亡した。同時期、同様の症状で死亡する人間があらわれる。主人公は民間の医療研究センターに勤める若勢。女所長の南田と共に、警視庁から依頼を受けて、新種のウイルスではないかと原因を追うが、手掛かりは全くつかめない。そんな中、不思議なものが見えるという男が現れる。それはあのライブ会場にいたらしい……。
冒頭にグロテスクなシーンがあるが、全体の構成的に「起爆剤」として必要だった印象で、以後は結構地味な調査が続く。なので、グロテスクなシーンは比較的少ない。どちらかというと、医療系の知識を駆使して、新種のウイルスを追うという医療ミステリの雰囲気もある。その医療知識が正しいかどうかは、私には分からないが、少なくとも荒唐無稽とは感じなかった。
特筆すべきは展開の早さ。多分、作者の特徴なのではないかと思うが、細かく章割りされていて、一つの章の中に何らかの興味を引く題材を入れてくる。地味な展開と書いたが、グイグイ読める面白さがある。これはサスペンス的手法で、一度読み始めるとついつい次の一章も読んでしまう(短いのもあるし)。そういう訳で、中盤までは非常に楽しく読めた。ただ、主人公の恋人がいるのだが、その存在意義がイマイチ分からないというのはあったが……。
雰囲気が怪しくなってくるのは後半から。「このあと、このページ数で終わるのか」という疑問が湧いてくる。ウイルスの謎は全く解けず、登場人物は増え、ページ数は減ってくる。「ああ、これは」と、本に読みなれた方なら予感がしてくる。そう「投げっぱなし」の予感である。展開が早いだけに、余計にそう思える。では、結末はどうだったかというと、流石にそれは書かないでおこうと思う。それを書いてしまうと、読む価値がなくなってしまう。
ただ、抽象的に表現するなら「これまでの展開を全て吹っ飛ばし、最初に考えた『面白い落ち』をぶち込んできた」という感じ。ただ、この落ちはまあ、いかがなものかと。そこまでが(比較的)科学的だっただけに違和感がすごい。時代はこの小説の設定を追い抜かしているような気がする。この小説の設定が当てはまるなら、今頃全人類の頭が爆発しているだろう。
と、注文を付けてみたが、軽い読書としては読みやすいし、なかなか楽しかった。ラストは問わないで、経過を楽しめる人であれば、そこそこおススメ。
(きうら)