- 33篇のショートショートミステリ
- アイロニーとユーモアに溢れる
- 一番古い話は1979年に朝日新聞に掲載
- おススメ度:★★★☆☆
軽く洒脱な文章で名を成した赤川次郎による、さらに軽さを増したショートショート集。ショートショートはその名の通り、文庫本で3ページから10ページ程度の長さの範囲で、それなりの落ちを付ける形式の読み物である。もともと、軽快さを売りにしていた著者である。星新一や阿刀田高と比べても、その軽さは特筆ものだ。何しろ、酒を飲みながら196ページの文庫本を1時間もかからずに読み終わってしまった。感想はそう「軽かった」で許してもらえないだろうか。
例えば表題の「踊る男」という話は、いつものバーで合う二人の世間話という体裁で語られる。絶対に怒らないというサラリーマンが、ある日突如、奇妙な行動をとり始める。例えば、バーでミルクを頼んだり、洋服売り場で女性の服を着始めたり、いきなり「踊り」始めたり……いったいその原因は何か? これがたった文庫本3Pちょっとで展開するお話なのである。落ちを書いてしまってはこの本を買う価値が32/33になってしまうので書かないが、今でいう「意味が分かると怖い話」系の落ちになっている。面白いかどうかと言われると、読み飛ばしてしまうレベルだが、かと言って素人が書ける話でもない。
この本は二部構成になっていて、全編は前述の「バーの二人の世間話」という体裁で12編のお話が語られ、後半はページ数にとらわれずに残りの21話が語られる。別に連作でも何でもないので、どこから読んでどこでやめても自由だ。ラブレターの「代筆」なんて古いテーマも出てくるが、ここ一年で読んだ本で一番読みやすかったと言っても過言ではない。軽妙洒脱な赤川次郎の面目躍如の一冊と言える。
個人的には「早朝マラソン」という話がいちばん気に入った。「サンマは目黒に限る。マラソンは早朝に限る」という男が、早朝マラソン中に謎の美女に出合って……というお話。そんな男が最後に言うセリフ、はっきりとした落ちではないので書いてしまおう――「マラソンは早朝に限る。女房は後姿に限る」。だいたいお話は想像できると思うが、こういう軽いお話からもう少しブルーなネタ、中にはハートフルな「ありふれた星」というエピソードもある。とにかく、高速で展開する様々なパターンのお話に身を任せてひたすら読み進めばいいのだ。
怖いかどうかというと怖い話もある、といった程度。なにしろ初出から約40年も経とうかという作品なので、今読んで面白かと言われると即答できかねるが、それでも青筋立てて密室ミステリを読んだり、陰惨なホラーに血眼になったりする合間に、一冊ぐらいこういう本も読んではいいのではないかと思う。
(きうら)