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★★★☆☆ 読書メモ

「幻想文学――転覆の文学」『幻想と怪奇の英文学・3』(ローズマリー・ジャクスン、下楠昌哉[訳]/春風社)~読書メモ(33)

投稿日:2019年4月12日 更新日:

  • 読書メモ(033)
  • 「幻想文学」とはジャンルではなく、「様式(モード)」である
  • 「幻想文学」ファン必携の本
  • おススメ度:★★★☆☆

【はじめに】

幻想文学(幻想小説・ファンタジー)という用語をよく使うのですが、はっきり言うと、これが何を指すのかを細かく定義して使っていたのか分かっていませんでした。ジャンルとして「ファンタジー」とつけられている本は、そういうものとして「ファンタジー」と書いておけばいいのですが、それ以外の文学やホラー小説やなんやらのことを、「幻想文学」と書くときに、これがいったいどういうものを指すのかを、個人的にきっちりと、こういうものだと示していませんでした。というか、何をもってして、「幻想文学」というのかを分かっていなかったため、けっこう恣意的に用いていた感があります。で、名著とされる本書がようやく翻訳されたので、これからは(一応)本書を基に考えたいと思います。そういう意味でなにかと興味深い一冊でした。

【本書について】

『幻想文学(ファンタジー)――転覆の文学』は、1981年に出されたもので、著者がそれまでに出版された小説を基に、様々なテクストに共通する構造や形式を取り出して、それを「幻想文学」の様式(モード)として提示しています。実を言うと、私は本書を未だ全体の八割しか読んでいません(4/5現在)。おそらく、この記事が投稿される頃には全部読んでいます。なので、語りきれていないところもありましょうが、そこはそれ、この記事は個人的なメモなので、ご了承ください。おそらく、私がこれから「幻想文学」と書くときには、本書の内容を念頭に書くことなりそうだといっておきます。

まず、「様式(モード)」とは、「幻想文学」と提起される作品群には何かしらの共通する形式的な構造があるということです。それは、「リアリズムの前提を崩しにかかる」傾向を内包するものだと言えるのでしょう。そこでは、現実(リアリズム)の「転覆」であり非現実なものをもたらされます。しかし、「幻想文学」の様式(の発動)は「社会的文脈の内部」でなされ、「その文脈によって定められてもいる」のです。

見慣れた日常の世界から、そうではない世界を垣間見せることで、作品の語り手と読者を「不安定」にするものとして「幻想文学」を位置づけるのでしょう。そこから派生して、様々なジャンルへと「幻想文学」の様式が語られるわけです。とくに、「精神分析観点」で説明されるのが、なかなか読みごたえがあります。それから、「幻想文学とは、『現実』と『意味』を確立することに関わる諸問題を明らかにする」という指摘は、なかなか重要ではないかと思います。

本書を読むと、「幻想文学」という様式(モード)は、すぐれてラディカルな文学の方法論になりうることにもなるのでしょうか。たとえば、ゴシックの書き手に女性が多いわけとして、メアリー・シェリーからブロンテ姉妹(シャーロット、エミリー)からアンジェラ・カーターまで挙げながら、そのわけとして、「幻想文学を父権的な社会――現代文化の象徴的秩序――を転覆するために」それを利用したとあるのは、なかなか示唆的です。とはいえ、本書以降のゴシック風作品の書き手には、それだけではないものも感じますが。

その他、本書では、正統?ファンタジーからゴシックホラーからドストエフスキーにカフカにピンチョンといった文学までと、様々なジャンルをとりあげて、それらに「幻想文学」の現れをみていきます。それを読む限りでは、現在の小説には、「幻想文学」という様式(モード)は欠かせない作品もあるのでしょう。本書に載せられている作品リストだけでもなかなかの量で、私は半分も読んでいないので、これからの楽しみにします。それから、日本幻想文学の解説本に載せられているものも読んで、「幻想文学」の可能性をひそかに考えていきたい。というか、「幻想文学」とは、あまりにも広く解釈できそうな気もするので、ちょっと絞らないといい加減な読解にもなりそう。

あと、本書についての注意?です。けっこう理論的なものですので、本当に「幻想文学」が好きな人向けの本といえるのではないでしょうか。

(成城比丘太郎)


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