- 「読書メモ073」
- 古い屋敷に縛られた一族。
- 主人公の女性が危難を乗り越える。
- オススメ度:★★★☆☆
【作者について】
作者のシルヴィア・モレノ=ガルシアは、メキシコ生まれのカナダ人作家です。「無類のラヴクラフティアンを自認する彼女」は、「ラヴクラフト関連の評論集を次々に編んでアンソロジスト」として注目を集めたようです。ちなみに、本作品は彼女の六番目の長篇小説だそうです。
【作品について】
あらすじは簡単なものです。作品舞台は、1950年のメキシコです。主人公のノエミ・タボアダが、彼女のイトコであるカタリーナから助けを求める手紙を受けとります。そして、ノエミの父の要請で、カタリーナが住む田舎町に行って、カタリーナが暮らす屋敷に赴き、カタリーナを助けるためにあれやこれやする筋の話です。
カタリーナが嫁いだその屋敷にはある秘密があるのです。それを書いてしまうとネタバレになってしまうので、読んでのお楽しみです。というか、ネタバレしてしまうと面白さが半減してしまうので、できればなにも知らずに読んでください。
テイストは間違いなく古き良きゴシックホラーものです。鉱山のある田舎町にある曰く付き(?)の屋敷。そして、そこに住まう謎多きドイル一族と、使用人たち。終局に向かうにつれ、その一族の謎が明かされて、主人公ノエミを襲うものの正体も判明するのです。真相が明かされるまでの雰囲気がまさしくゴシックホラーです。
ゴシックホラー要素を増しているのが、英国からメキシコにやって来たドイル一族のとある設定や、当時(二十世紀前半)の優生思想などです。それらがゴシックものの味付けになっております。なにより、この一族が屋敷から逃げられないという状態が、当時のメキシコ(英国式の生活)の社会状況と合わさって、読者を惹き付けます。
まあ、読みやすいです。あまりにも読みやすかったので、かえって怖さは感じませんでした。遊園地によくある古いホラーハウスに入った感覚で読めました。
「この家は人骨の上に築かれている。そうした残虐行為を誰にきづかれることもなく、人々は引きも切らずにこの屋敷に、鉱山に流れ込み、そして生きて出ていく者はひとりもいなかった。死を悼む者も、行方を尋ねてくる者もないままに。蛇は己の尻尾ではなく、周囲のすべてを貪欲に呑みこんでいったのであり、その食欲が衰えることはなかった。」(本書、p.330)
この屋敷に住まう一族は、この屋敷や土地に縛られた存在でもあります。その一族のありようを考えると少しだけ悲しくはなります。その悲しさを体現しているのはフランシスという人物でしょう。過去と因習に呪縛されているフランシスですが、ノエミという未来を探りだそうとする存在がいて、ようやく彼の本領は発揮される。つまり、人間本来の生を生きることができるようになるのです。フランシスの行く手はまだ霧に包まれているものの、ノエミという「希望」が光源になって彼を導いていく。草原の朝露をやさしく払う風となって現れたノエミは、フランシスにとってまさに待ち望んだ「愛」のかけらです。
要は、この作品は、ノエミとフランシスの愛が生まれる、その過程を描いたロマンスでもあるわけです。
【ノエミについて】
主人公のノエミは、メキシコの大学に通う女性です。この時代に大学に通えるわけですから、階層的には上の方にいる人なのです。このノエミは上流家庭の人なのです。彼女は、移り気でありながらも、好奇心が強くて勝ち気なところがありますが、他人を思いやるやさしさもあります。こうした女性は当時のメキシコにおいては、もしかしたら異例なものだったのでしょうか(調べてないのでわかりません)。しかもノエミは、スペイン語と英語の両方で話せます。混血(メスティーソ)であるノエミ自身に、メキシコという国の立ち位置が現れているようなのです。
さらには、ノエミには、それなりに理系の知識があるために、この作品がしっかりとした「バイオ・ホラー」である面が強調されるわけです。
では、なぜノエミの父親は資産家の娘を、海千山千(?)の人物が住む(であろう)屋敷にひとりで行かせたのか? 父親はこの役目が彼女にふさわしいものだという確信があったのでしょう。父親によると、ノエミは「移り気だが、間違ったことにはとことん抵抗するだけの気骨」があるのだそうです。ひとりで何かをやり遂げられる、そういう女性であると信頼していたのでしょう。
確かに、ノエミのような若い女性(二十二歳)がひとりで赴くには、その屋敷は剣呑な場所で危険かもしれません。しかし、物語が進むにつれて、この大役をつとめるにはノエミでなけらばならないと思えてきます。まあ、救う対象であるカタリーナが心を許しているのはノエミでしょうから。それに、カタリーナ自身がノエミに助けを求める手紙を出したことを考えると、カタリーナはある意味ノエミなら来てくれると無意識のうちに思っていたかもしれません。
【結論】
純粋のホラー体験という面では、それほど怖くないですが、メキシコがどういう国であるかという側面は少しだけ知ることができます。そして、ホラーと謎解きとの融合という面でも面白かったので、ホラーとミステリが大好きな人はぜひとも読んでみてくださいー。個人的には、色んな意味で、有意義な読書でした。
【余談~競馬】
『メキシカン・ゴシック』に出てくる屋敷は、「ヴィクトリア朝期の建築様式にとことんこだわった」ものでした。とにかく英国式にこだわった屋敷ということで、古き良きゴシックホラーものの舞台設定としても申し分なしでした。
イギリスのヴィクトリア朝つながりで、今週の日本の競馬では、ヴィクトリアマイルが行われます。先週のマイルカップのように大穴が来るのかどうか。人気は、ソダシとソングラインが上位人気でレイパパレとデアリングタクトがそれに続くでしょうか。個人的には、この四頭で決まるような馬券は買いません。
では、何がいいのか。やはり勢いのある馬から入るべきか。だとすると、クリノプレミアムとメイショウミモザかな。しかしこの二頭は穴で狙います。では、ファインルージュかな。ファインルージュの前走は勝ち馬が強すぎた結果の2着なので、これは十分に本命候補です。あとは状態だけです。もちろん、馬場状態しだいで変わります。良馬場ならディープインパクト産駒を相手に入れときます。それと、もちろんシャドウディーヴァも買います。
まあ、週末の雨しだいですけど、とりあえず今のところファインルージュを中心に考えておきます。
(成城比丘太郎)